本記事では、「ストーリーがわかりやすい」「どこかで聴いたことがある音楽」などをポイントに、初心者におすすめのオペラを厳選してご紹介します。
テレビや映画をきっかけにオペラに興味を持ったものの、「何から観たらいいのかわからない」「外国語だし、何だか難しそう」と二の足を踏んでいるかたはとても多いと思います。
でもオペラは、よくありがちな恋愛模様や友情が描かれていたり、有名な原作や史実が元になっていたりと、実は身近に感じられる演目がほとんどなのです。
そこで、PR会社に勤めながら演奏活動している国立音楽大学出身の筆者が、初心者のみなさんの不安を少しでも解決するため、“オペラのPR担当”としてオペラの魅力を書きました。ぜひ参考にしてくださいね。
目次
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「椿姫」(ヴェルディ作曲)
「ラ・ボエーム」(プッチーニ作曲)
「魔笛」(モーツァルト作曲)
「カルメン」(ビゼー作曲)
「愛の妙薬」(ドニゼッティ作曲)
1.オペラ初心者におすすめ!4つの選考ポイント
筆者が初心者の方におすすめするポイントは以下4つです。
☆ストーリーがわかりやすい(ストーリー)
☆どこかで聴いたことがある曲が含まれている(どこかで聴いた)
☆上演回数が多く(※)、YouTube等でも探しやすい(上演回数)
☆キュンと胸が熱くなるポイントがある(キュン)
今回は、このうち、3つ以上含まれている5演目を選びました。
オペラ初心者の方にまず聴いていただきたい1曲とともにご紹介しますね。
※上演回数についての出典元
英国クラシック音楽情報サイト「bachtrack」
The Eroica year: the Bachtrack Classical Music Statistics for 2019
(2019年Bachtrackクラシック統計)
https://bachtrack.com/classical-music-statistics-2019
2.おすすめオペラ5演目のあらすじと、聴いてほしい1曲を紹介!
「椿姫」(ヴェルディ作曲)
筆者おすすめポイント:ストーリー どこかで聴いた 上演回数 キュン
上演回数が多いだけでなく、オペラの中の独唱曲やデュエットだけ切り取って、コンサートで歌われることも多いです。
それだけ聴く側にも歌う側にも愛されているオペラということで、まずおすすめします。
華やかな社交界のパーティーを舞台にした恋の駆け引き、恋人同士のデュエット、メインキャストそれぞれの個性がわかりやすく引き出される独唱曲。ストーリー展開も音楽もわかりやすく、一度観たらきっとすーっと心の中に入っていくはずです。
言語:イタリア語
初演:1853年3月6日
上演時間:約2時間 全3幕
2019年上演回数ランキング:2位
◆あらすじ
世間知らずの田舎貴族と華やかな社交界にいた高級娼婦が、置かれた身分など考えもせず本気で愛し合います。しかし反対されて別れ、最後はお互いの愛する気持ちを再確認したものの、悲しい別れで幕を閉じます。
観ていて感情移入しやすい王道のストーリーです。
音楽を聴いただけでもはっきりと感じられる光と影のコントラストは、舞台を観ればいっそうわかります。
メインキャストは、主役の高級娼婦ヴィオレッタ、その恋人アルフレード、そして、このオペラでとても重要な役割を持つ、アルフレードの父親ジェルモンの3人。それぞれに、美しい独唱曲やデュエットがあります。
♫華やかな気持ちにさせてくれる超有名な曲!♫
「乾杯の歌」(ヴィオレッタとアルフレードのデュエット)
なんといっても、「椿姫」の中で一番有名な曲は1幕でのヴィオレッタとアルフレードの出会いのシーンで歌われる「乾杯の歌」でしょう。
結婚式の披露宴で乾杯のご発声の後、またはテレビでゴージャスな邸宅やイタリア料理が紹介されるときも、よくBGMとして使われていますよ。
華やかな宴にぴったりの曲だから使用頻度も多いのですね。
ヴィオレッタが自宅でパーティーを催したとき、ヴィオレッタにひそかに想いを寄せていたアルフレードが“ご指名”を受け、ヴィオレッタを前に歌いはじめます。
それに答えるようにヴィオレッタも歌い始め、パーティーの招待客も合唱として盛り上げる、とても華やかな曲です。
「ラ・ボエーム」(プッチーニ作曲)
筆者おすすめポイント:ストーリー 上演回数 キュン
パリでの成功を夢見る若き芸術家の卵たちの、普通の日常生活から生まれた青春恋愛模様や友情を描いています。
若者たちが酒を酌み交わしながら盛り上がったり、カップルがくっついたり別れたり。まるで現代の日本の“連ドラ”を見ているような気分にさせられます。
憎しみや嫉妬から生まれるドロドロシーンが苦手な人には特におすすめします。
言語:イタリア語
初演:1896年2月1日
上演時間:約1時間40分 全4幕
2019年上演回数ランキング:4位
◆あらすじ
メインキャストは屋根裏部屋で貧乏暮らしをしている若き詩人のロドルフォと、お針子のミミ。
出会ってまもなく恋に落ちたふたりは一緒に暮らし始めますが、貧乏なロドルフォは病弱なミミを支えることができません。
お互い愛しているのに別れを告げ、それぞれの暮らしに戻りますが、最後にミミは再びロドルフォの元に連れてこられます。
ロドルフォやその仲間たちのいる部屋で、ミミは息を引き取ります。
オペラの中では、ロドルフォの友人である画家のマルチェッロが元カノのムゼッタとばったり遭遇し、結局よりを戻したり、また喧嘩したりといったやりとりもコミカルで面白いですよ。
♫恥ずかしいほど甘い言葉で口説く!最初にキュンとさせる曲♫
「冷たき手を」(ロドルフォの独唱)
「ラ・ボエーム」は私が知る限り、テレビや映画等でよく使われる曲はないのですが、青春ストーリーだけあってキュンキュンするポイントがところどころに登場します。
その中でも、ロドルフォとミミの出会いのシーンでロドルフォが歌う曲は最初のキュンポイント。
蝋燭の火を借りにミミがロドルフォの部屋を訪れます。しかし帰り際にミミが鍵を落としたと言い、どさくさにまぎれてロドルフォは蝋燭の火を消してしまいます。
暗闇で鍵を探しているときに(本当はロドルフォは鍵を見つけたのだけど知らないふりをして)ミミの手を握り、歌うのがこの曲。多くのオペラファンが愛してやまない曲と言ってもいいでしょう。
魔笛(モーツァルト作曲)
筆者おすすめポイント:ストーリー どこかで聴いた 上演回数 キュン
オペラ上演回数ランキング1位に輝く「魔笛」はメルヘンストーリー。
展開が早くハチャメチャなところもありますが、それはご愛嬌。ところどころ「ぷぷっ」と笑えるシーンもあります。
男女の恋愛をきっかけとした複雑でドラマティックな展開のオペラが多い中、子供と一緒に楽しめる数少ないハッピーエンドオペラのひとつと言えます。
言語:ドイツ語
初演:1791年年9月30日
上演時間:約2時間30分 全2幕
2019年上演回数ランキング:1位
◆あらすじ
当時、このオペラをモーツァルトに依頼したのは、劇場支配人で俳優兼歌手のシガネーダー。
モーツァルトの鬼才ぶりがデフォルメされた映画「アマデウス」を観たことがある方は、思い出してください。本番中に倒れてしまったモーツァルトを見舞いに、本番後カラフルな鳥のコスプレの格好をしたまま駆けつけた男性を。
彼自身も鳥刺しのパパゲーノという役で出演しました。
主役のタミーノ王子は、夜の女王から、ザラストロにさらわれた娘パミーナを助け出してほしいと依頼され、ひょんなことから知り合った鳥刺しのパパゲーノをお供にパミーナを助けに行きます。
しかしザラストロの城に到着すると、タミーノは、ザラストロが神に仕える崇高な思想を持った高僧であり、パミーナを夜の女王から守るために保護していたことを知ります。
途中、タミーノとパミーナは高僧ザラストロから与えられた試練を乗り越え、晴れて結ばれます(登場人物が多いのでかなり端折っています)。
♫何か知らないけどとにかく激しい曲!♫
「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」
「魔笛」というタイトルを知らなくても、この曲は結構有名かと思います。
夜の女王が自分の娘に向かって「ザラストロを殺しなさい」と歌う、短いけれどかなり激しい独唱曲です。
よく「超絶技巧の歌」とか「歌える人は世界で何人もいない」などと言われて紹介されます。
曲中の、超高音と言われる音(ピアノの真ん中のドから2オクターブ上、そこからレ、ミ、ファと上がった「ファ」の音)が4回出てくるところだけ切り取られて、テレビでBGMに使われることもありますね。
ただ、余裕でこの超高音のファを出せるひとも、この夜の女王の曲を歌えるひとも日本には大勢いらっしゃいます。
実はこの曲、筆者も歌えます。ただ、この役を演じるためには超高音がきれいに出るだけではだめで、夜の女王の激しく凄みがある演技も含めて、総合的に見てこの役を歌える人は確かに少ないかもしれません。
カルメン(ビゼー作曲)
筆者おすすめポイント:ストーリー どこかで聴いた 上演回数 キュン
「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)のオープニングにも使われている序曲(オペラの最初に演奏される曲)は一番耳馴染みがあるはず。
その他、フィギュアスケートやちょっとしたバラエティ番組の挿入曲にもとにかく頻繁に使われています。
観ながら「あ、この曲知ってる!」がしょっちゅう出てくるので、きっと身近に感じるはずです。
言語:フランス語
初演:1875年3月3日
上演時間:約2時間20分 全4幕
2019年上演回数ランキング:5位
◆あらすじ
真面目で垢抜けない竜騎兵のドン・ホセが、田舎に許嫁ミカエラがいながら、自由奔放に生きるタバコ工場のカルメンの魅力に取り憑かれ、翻弄され、ついにはカルメンを刺してしまう、というストーリーです。
世界を代表するオペラ歌手 エリーナ・ガランチャが、ニューヨークのメトロポリタンオペラ歌劇場でカルメンを演じた際の幕間インタビューでこんなことを言っています。
「さまざまな顔があってつかみどころがない」
「ひとつの型にはまらない」
まさにこの2つがカルメンの魅力であり、ホセだけでなく世界中のオペラファンを虜にしている理由でしょう。
カルメンの歌う曲はいずれもおしゃれでテンポがいい。ホセのアリアは甘く美しい。
また、許嫁ミカエラとホセには、このオペラの中でも唯一ほっとさせる、甘く優しくキュンとさせるデュエットが与えられています。
♫耳に残る最高に格好良い1曲!♫
「闘牛士の歌」(エスカミーリョの独唱)
これもよくテレビCMやバラエティ番組で使われる曲です。
たぶん前奏を聴いただけで「あ!」と思う方もいらっしゃるはず。
カルメンのいる酒場に超人気闘牛士エスカミーリョが派手派手しく登場。
エスカミーリョはカルメンを意識しながら「どうだ!」と言わんばかりに自信満々、颯爽と歌うのがこの曲です。
カルメンはこの時点では気のないそぶりを見せますが、後に恋人同士にもなるんですね。それがホセの嫉妬を呼び、最後の悲劇のきっかけのひとつとなります。
愛の妙薬(ドニゼッティ作曲)
筆者おすすめポイント:ストーリー 上演回数 キュン
正直に言うと、これまで紹介した4つのオペラは上演回数や人気度はダントツ。
それに比べ「愛の妙薬」は、2019年上演回数ランキングの上位には入っていません。
それでも、大変人気のオペラであることには間違いなく、今回ご紹介する5つのオペラの中で1番爽やかで軽く楽しい内容なので、ぜひ知っていただきたく選びました。
言語:イタリア語
初演:1832年5月12日
上演時間:約1時間50分 全2幕
◆あらすじ
村の農場主の娘で美人のアディーナに、おひとよしで鈍臭いネモリーノは想いを寄せています。
なんとか勇気を出して告白しますが、相手にしてもらえません。
そこに薬売りドゥルカマーラが登場。この「愛の妙薬」を飲めば、翌日には女性が次々に言い寄ってくると言われて、その薬を買います。
といってもこれ、薬でもなんでもなくフランス・ボルドーのワインなのですが、信じきったネモリーノはその薬を飲むとすっかりいい気分に。明日になればアディーナは自分に言い寄ってくると、アディーナにも大きな態度を取るので、あてつけのようにアディーナは村の軍曹ベルコーレからの求愛を受けてしまいます。
ちゃんと惚れ薬を飲んだのに効かない。。。もう惚れ薬を買うお金がないネモリーノは軍隊に入るのと引き換えにお金をもらい、また薬を買います。するととたんに村の娘たちからちやほやされるようになります。
実は惚れ薬の効果ではなく、ネモリーノに伯父の莫大な財産が入ることを噂で知った娘達が、お金目当てで近づいたのでした。
そんな中、ネモリーノがその薬を手に入れるために軍隊に入ったことを知ったアディーナは、その一途な心を知り心を動かされます。そして軍隊に入る書類を買い戻し、ハッピーエンドとなります。
♫これは知ってほしい!クライマックスでキュンとさせる曲!♫
「人知れぬ涙」(ネモリーノの独唱)
惚れ薬を買うお金を得るため、つまりアディーナへの想いを叶えるためにネモリーノが軍隊に入ったことを知ったアディーナは、その一途なネモリーノの気持ちに心打たれ、涙します。
それを見たネモリーノがしっとりと歌うのがこの曲です。
「愛の妙薬」は明るくテンポのいい音楽が多いのですが、その中にあってこの曲はせつなくキュンとする1曲。ハープの伴奏もとてもきれいです。
3.初心者におすすめのCDはズバリこれ!
知識ゼロからのオペラ入門 池田理代子
出版社:幻冬舎
オペラ初心者にとって、これほどわかりやすい“テキスト”はほかにないのではないでしょうか。
著者は、漫画家の池田理代子さん。代表作「ベルサイユのばら」はアニメ化されイタリア、フランスなど各国の言語で親しまれています。宝塚歌劇団の人気演目にもなっています。
また、池田さんは1999年に東京音楽大学を卒業し、歌手としても活動されています。旦那様はオペラ歌手の村田孝高さんで、おふたりで共演している時の写真が本書籍でも紹介されています。
そんな池田さんの書籍をおすすめする理由は3つ!
★池田理代子さんの華やかなイラストが所々に登場し非常に読みやすい
★付録として、紹介したオペラの作品の中からセレクトした18曲のCDを付録にしている
★池田さんご自身も東京音楽大学の声楽科を卒業したソプラノ歌手!演奏家目線でわかりやすい
この1冊で、各作品のあらすじとおすすめの曲を聴くことができるので、オペラ初心者にふさわしい1枚と言えます。はじめの一歩に、まずは開いてみてください。
4.まとめ
以上、筆者おすすめのオペラ5演目とオペラ初心者の方にまず聴いていただきたい1曲をご紹介しました。
ここまで読んでいただくと、オペラへの印象は下記のように変わったのではないでしょうか。
◎ストーリーがわかりやすい!
◎基本的に「惚れた腫れた」が中心で身近なお話!
◎主人公が死んでしまうお話だけでなく、笑えるような楽しいお話もある!
◎小難しいことなどなく、自然に感情移入できそう!
◎曲名を知らないだけで、実は知っている曲があった!
ぜひ、この記事をきっかけに、ご紹介したオペラを聴いて、観てみてください。
そしてその魅力に引きずりこまれてしまってくださいね。