オペラってそもそもどんなもの?何語?ミュージカルとどう違うの?など、オペラ初心者が抱く素朴な疑問についてわかりやすく解説します。
「オペラとは、体の大きい歌手がステージ真ん中で派手な衣装を着てすごい声量で歌うこと」
そんなふうに思っている方も、まだたくさんいらっしゃるのでは?これはテレビの影響ですよね。
テレビ番組にオペラ歌手の方が出演されるときはたいてい、オペラの中で歌われるインパクトある独唱曲を1曲歌ってはい終わり、ですから。
音楽大学出身で、10年以上演奏活動をしている筆者も、高校に入って声楽を習い始めるまでこんなイメージでした。
でも、この記事を読んでいただければ、そのイメージは払しょくされるはずです。
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目次
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- そもそもオペラとは?
- オペラってミュージカルとどう違うの?
- オペラって何語?原語を勉強しないと理解できない?
- オペラのチケットはいくら?
- オペラの所要時間は?
- オペラはどれくらいの人数でやっているの?
- まとめ
その1:「マイクを使わない」
その2:「会話にも音楽がついている」
1.そもそもオペラとは?
フィレンツェの街並み
作品の世界観を表現する舞台、衣装、そしてオーケストラと歌い手(時にはバレエも)。それらすべてがそろったオペラはよく「総合芸術」と表現されます。知れば知るほど奥深いのですが、まずは、「オペラとは何?」から。
オペラの歴史は1600年代にイタリアのフィレンツェで始まったと言われています。その原点は,当時上演されていたギリシャ劇に音楽が加わった音楽劇でした。つまりオペラとは「演劇の台詞(せりふ)を歌にした舞台芸術」であり、日本語で記載すると「歌劇(かげき)」、まさしく「歌う劇」です。
出典:文化庁広報誌「ぶんかる」ようこそ劇場へ オペラは音楽とドラマの融合
「歌う劇」ということではミュージカルと似ていますね。オペラとミュージカルの関係、かいつまんで言うとこのようになります。
“オペラは当初、貴族の楽しむものでしたが、その魅力から民衆にも広がっていきました。
その中で、オペラから派生したオペレッタというコミカルな作品ができ、さらに1800年台のアメリカ、ニューオリンズで発展されたものがミュージカルだと言われています。
オペラは、ミュージカルと比較しながら説明するとわかりやすいです。大きな違いを2つに絞って説明します。
2.オペラってミュージカルとどう違うの?
その1 :「マイクを使わない」
オペラ歌手はミュージカルと違い、マイクを通さない生の声で歌います。文明が発達した現代になっても、生の音で演奏され続けています。
そのためオペラ歌手は、身体という“楽器”を使って2時間、演目によってはそれ以上、劇場の隅々まで通る声をつくるために、鍛錬を重ねます。
自ずと身体もしっかりしてくるので、身体にも厚みが出てきます。また、大きな身体=楽器を持っているほうが声量もあり、豊かな声を出すことができます。
逆に、鍛えていなかったり、下手なダイエットをしてしまうと“楽器”のしくみが変わってしまい、それまでの声が変わってしまいます。
誤解されがちなのが、「オペラ歌手=太った人」ということ。実は、世界で活躍している人の中には、スマートなかたもたくさんいらっしゃいます。
彼らを見ていると、太っているとか痩せているとか関係なく、歌うための“楽器”をつくっているから、人々を感動させるパフォーマンスを発揮できるというのがわかります。
ここでは、スマートな女性オペラ歌手の方の中から、フランス人のソプラノ ナタリー・デセイをご紹介します。
デセイは、ソプラノの中でもソプラノ・レッジェーロ(レッジェーロ=イタリア語で「軽い」)という特に軽い声質を持ち、超高音も難なく出します。さらに、コロラトゥーラという、カラフルに転がるように歌う技術が優れている、世界を代表する歌手です。
元々女優を目指していたということから、演技力にも定評があります。
ベッリーニ「夢遊病の娘」より "Ah! non giunge"
どうでしょう。舞台を飛び回り、軽やかに楽しそうに音を転がしていますよね。
オペラ歌手のイメージ、少し変わった方も多いのでは?
その2:「会話にも音楽がついている」
ミュージカルは、会話や独白の合間にソロやデュエットの曲がありますよね。オペラもその流れは一緒ですが、オペラの場合は、会話や独白にも音楽がつきます。
そして、音楽やリズムに会話を合わせるというよりは、会話の抑揚や言葉のイントネーション、感情の高まりに合う音がついているようなイメージです。
文章だけではわかりにくいと思うので、ここで典型的な例としてその雰囲気がわかるシーンをご覧ください。
ヴェルディ「椿姫」2幕より "Madamigella valery..."
オーケストラの演奏に合わせて歌うときもあれば、ささやくようなシーンは音がなく、歌手のアカペラだけの時もあります。
ただし例外もあります。まさに現代のミュージカルに近いスタイルなのが、モーツァルト「魔笛」です。
「魔笛」(内部リンクつく)は、大衆をターゲットにしたドイツ語のオペラで、ジンクシュピール(歌芝居)というスタイルをとっています。19世紀中頃に作られた「椿姫」よりも昔、18世紀後半に作られたオペラですが、今のミュージカルの形に近いのは面白いですよね。
「魔笛」で1番有名と言ってもいい、夜の女王の歌うシーンが例としてわかりやすいので、ご覧ください。
モーツァルト「魔笛」夜の女王のアリア "Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen"
3.オペラって何語?言語を勉強しないと観ても理解できない?
発祥の地、イタリア語でつくられたオペラが1番多いですが、ドイツ語、フランス語のオペラも数多くあります。数は少ないものの、チェコ語やロシア語もあります。
鶴の恩返しを題材にした「夕鶴」など、日本語のオペラもあります。
しかし、イタリアオペラだけ、ドイツオペラだけ、また、母国語だけなど、ひとつの原語のオペラだけ歌うプロの歌手は、世界中を探しても、ほとんどいません。
オペラ歌手は、これら色んな国の言葉のオペラを原語で歌えることが基本となります。これは日本人も同じです。
では日本でも、イタリア語、ドイツ語、フランス語の勉強をしないと外国語のオペラは楽しめない?
答えは「ノー」です。
なぜなら、今、日本国内でもほとんどの公演で日本語字幕がつくからです。
新国立劇場、藤原歌劇団、東京二期会など、日本を代表する大きなオペラ団体では、100%字幕がつきます。中小規模の団体でも、ほとんどの公演で字幕がつきます。
しかしさすがに、海外の劇場で日本語の字幕を見ることはできません。英語の字幕はありますが。。。
でも逆に、いっそのこと舞台上のパフォーマンスと音楽に集中できるかもしれませんね。
4.オペラのチケットはいくら?
日本国内で観る大規模のオペラの場合、一番高額な席でで2~3万円程度です。しかし、海外の歌劇場が来日して行う引っ越し公演となると、5万、6万と大変高額になってしまいます。
大編成の団体がそのまま来日しますので、その経費などがチケット代に反映されるんですね。
しかし、国内での少人数編成の公演であれば1万円前後で済みます。さらに、全曲の演奏ではなく、場面場面を抜粋したハイライト公演になると、3千円~5千円程度で観ることができます。
ハイライト公演は値段もお手頃で、所要時間も短く、オペラの見せ場が凝縮されているので、筆者はオペラ初心者に強くおすすめします。
このサイトでも、4月頃から準備ができ次第、随時演奏会情報を掲載していきます。ハイライト公演も掲載しますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
5.オペラの所要時間は?
2時間前後から2時間半程度、2幕から4幕程度のオペラが多いです。中には1幕のみ、1時間程度の短いオペラや、逆に4時間弱かかる長いオペラもあります。
必ず幕間に十分な休憩が入りますので、ご安心を。
1時間程度のオペラでよく上演されているのは、マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」、レオンカヴァッロ「パリアッチ(道化師)」。この2つはセットで上演されることも多いです。
🎵ここで小ネタ🎵
日本のオペラ業界内では、この2つの演目をセットで上演することを通称“カヴァパリ”と言います。クラシック業界では、ベートーヴェンの交響曲第7番を“ベト7”、モーツァルトのレクイエムを“モツレク”など、なぜか作品を略して言うことが多いのですが、“カヴァパリ”もその一種ですね。
さて、4時間程度かかるオペラといえば、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」です。4時間・・・長いですよね。でも、観劇した方は「長さを感じない素晴らしさ」と言います。初心者の方にはハードルが高いかもしれませんが、オペラに慣れてきたら、ぜひ観てみてくださいね。
6.オペラはどれくらいの人数でやってるの?
大規模な団体のオペラは、ソリスト、合唱、オーケストラの他、舞台、衣装その他スタッフ含めて関わる人数は300人とも500人とも言われています。大がかりな舞台、華やかな衣装。ソリストを支える合唱、そして時にはバレエも。まさに総合芸術ですね。
しかし、演出やさまざまな都合によって、少人数編成の時もあります。
オーケストラ編成や合唱を少人数にしたり、舞台セットをシンプルにしたりすると、関わる人数も変わってきます。
さらに小規模の公演では、オーケストラではなくピアノや電子オルガンと少しの楽器のみだったり、ひとりのピアニストが、オーケストラとして全曲を演奏する場合もあります。
大規模な団体と違って、舞台セットも衣装もシンプルになります。でも、シンプルな舞台は舞台上の歌手が引き立ち、これはこれでまた、違った魅力を楽しめますよ。
7.まとめ
以上、巷でよく聞かれるオペラへの素朴な疑問についてご紹介しました。
オペラ初心者の方には、意外に思われたこともあったのではないでしょうか。
特に
◎オペラ歌手=ものすごい声量で歌う太った人 は間違い
◎日本でなら、日本語字幕がついているから言葉がわからなくてもOK
◎3,000~5,000円で気軽に楽しめる公演がある
この3つは、オペラへの偏ったイメージ、とっつきにくそうなイメージを変え、食わず嫌いも減るかもしれない、大切な要素ですよね。
ちょっと遠い世界に思えたオペラが、みなさんの身近に感じていただけたら嬉しいです。
さあ、それでは実際に、オペラを観に行ってみましょう!